大阪市の中小企業の経営者様、人事労務担当者の皆様、いつもお疲れ様です。大神人事労務事務所です。
中小企業を経営、あるいは人事労務を預かる中で、多くの経営者様が直面する悩みのひとつに、「残業を好き好んでする社員(生活残業、だらだら残業、業務効率が悪いことによる残業など)」の存在があります。
「仕事への熱意があるのは嬉しいけれど、人件費が膨らんでいく……」
「業務量に見合わない残業時間になっており、未払い残業代リスクが怖い」
「何より、本当にその残業は必要なのか?」
このように、真面目そうに見える社員だからこそ、強く言えずに放置してしまっているケースは少なくありません。
しかし、2024年4月からすべての中小企業にも「時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間)」が本格適用されている現在、「残業を好き好んでする社員」を放置することは、会社の資金繰りを圧迫するだけでなく、労基署からの是正勧告や、将来的な未払い残業代請求といった、会社の存続を揺るがす「巨大な労務リスク」に直結します。
今回は、社会保険労務士の観点から、会社を労務リスクから守るために、こうした社員へどのようにアプローチし、どのような仕組みを構築すべきか、具体的かつ実践的な対応策を解説します。
1. なぜ「好きでやっている残業」を放置してはいけないのか?
まず大前提として、「本人が好きで勝手に残っているのだから、会社に責任はない」「残業代を払わなくてもいい」という考え方は、労働基準法上、必ずしも認められるものではありません。
ここを誤解していると、将来的に手痛いしっぺ返しを食らうことになりかねません。社労士の観点から、放置がNGである理由を3つお伝えします。
① 「黙示の指示」による労働時間認定
労働基準法における「労働時間」とは、「労働者が雇主の指揮命令下に置かれている時間」を指します。 仮に会社が「残業しなさい」と直接命令していなくても、社員が残業していることを上司が把握していながら、何も言わずに放置(あるいはその成果物を受け取り)していた場合、法律上は「黙示(もくし)の指示」があったと判断される可能性が高いです。
つまり、会社が残業を把握しながら黙認していた場合には、その時間も労働時間と評価され、残業代の支払い義務が生じるリスクがあります。
② 未払い残業代請求の時効は「3年」
「本人は納得しているから大丈夫」と思っていても、退職後や人間関係がこじれた瞬間に、態度が一変して「過去の未払い残業代」を請求してくるケースは後を絶ちません。
現在、残業代請求の消滅時効は「3年」です。もし、毎月だらだらと月20時間の不要な残業を3年間続けていた場合、給与額にもよりますが、社員1人あたり百万円規模の請求になりかねません。これが複数人となれば、中小企業のキャッシュフローにとっては深刻なダメージとなります。
③ 「健康配慮義務違反」と「安全配慮義務」
会社には、社員が心身の健康を損なわないよう配慮する法律上の義務(安全配慮義務)があります。
「好きで残業している」社員であっても、月80時間を超えるような長時間労働が続き、万が一脳・心臓疾患やメンタルヘルスの不調をきたした場合、会社は「労働時間を適正に管理していなかった」として、高額な損害賠償請求を受けるリスクを背負うことになります。「本人が好きでやっていた」は抗弁になりません。
2. 「好き好んで残業する社員」の4つのタイプとその心理
効果的な対策を打つためには、まず「なぜ彼らは残業するのか」という動機を分析する必要があります。中小企業でよく見られるのは、以下の4つのタイプです。
| タイプ | 特徴と心理 | 会社への影響 |
| ① 生活残業タイプ | 基本給だけでは生活が厳しく、残業手当を「手取りを増やすための手段」としている。 | 意図的に作業を引き延ばすため、生産性が極めて低い。 |
| ② 居残り・孤独回避タイプ | 早く帰っても家でやることがない、会社にいる方が落ち着く、同僚と雑談したい等の理由。 | 職場に残り、他の社員の集中力を削ぐ原因にもなる。 |
| ③ 完璧主義・自己満足タイプ | 求められている水準以上の過剰なクオリティを追求したり、自分のスキル不足を時間でカバーしようとする。 | 自己満足のこだわりが多く、時間対効果(ROI)が悪い。 |
| ④ 昭和型・忠誠心アピールタイプ | 「遅くまで残っている奴=頑張っている」という古い価値観を持ち、上司や周囲への評価アピールとして残る。 | 周囲にも「早く帰りづらい同調圧力」を生み出し、職場全体を疲弊させる。 |
それぞれのタイプに応じてアプローチは異なりますが、共通して言えるのは「残業=会社の許可が必要な『例外的な業務行為』である」という基本原則が、社内で形骸化しているということです。
3. 社労士が提唱する「会社を守る」ための具体的5ステップ
では、具体的にどのようにして、この不要な残業を法的に正しく削減し、会社を守ればよいのでしょうか。以下の5つのステップを順に実行してください。
【ステップ1】 「残業許可制(事前申請制)」の厳格なルール化
これが実務上、最も効果的な対策の一つです。
就業規則や36協定(時間外・休日労働に関する協定届)に「時間外労働は、原則として事前の承認を得た場合のみ認める」という旨を明記し、「事前申請のない残業は原則として認めない」というルールを徹底します。
- 運用のポイント:
口頭ではなく、書面(またはグループウェアやチャットツール)で、「残業の理由」「予定時間」「具体的な業務内容」を事前に上司へ提出させます。
「本当に今日やらなければいけない業務なのか?」を上司がその都度判断し、不要であれば「明日やりなさい」と指示を出す仕組みを作ります。
なお、残業許可制を導入していても、会社が実際の残業を把握しながら黙認していた場合には、その時間が労働時間と認められる可能性があります。そのため、ルールを定めるだけでなく、日頃から適切に運用することが重要です。
【ステップ2】 許可のない残業に対する「不承認」と「退室命令」の記録
事前申請をせずにだらだらと残っている社員がいた場合、上司は絶対に放置してはいけません。必ずその場で声をかけ、明確に帰宅を促す「労務管理上の指示」を出してください。
- 指示の例:
「今日の業務はここまでにして、速やかに退室(退勤打刻)してください。残りの業務は明日の定時内に行うように。」
そして、「帰るように指示を出した(しかし本人が指示に背いて残った)」という事実を、上司の日報や労務管理システムに記録として残しておきます。 これにより、万が一未払い残業代請求などのトラブルが発生した際、「会社は残業を指示・容認しておらず、むしろ帰宅を指示していた」という事実を示す有力な資料となります。
【ステップ3】 「固定残業代(みなし残業)」制度の見直しと適正化
「うちは固定残業代(例えば月30時間分)を払っているから、だらだら残業されても定額だから大丈夫」と安心している経営者様は非常に危険です。
固定残業代制度を採用していても、「設定されているみなし時間を超えた分」については、当然1分単位で超過分の残業代を支払う必要があります。
生活残業タイプや仕事の遅い社員が、固定残業時間を日常的に超過して残業している場合、会社は追加支給義務から逃れられません。また、固定残業代の契約書や就業規則の記載が法的に不備だらけで、裁判になった際に、固定残業代制度が無効と判断された場合には、固定残業代として支払っていた金額が通常の賃金と扱われ、別途残業代の支払いが必要となってしまいます。
現状の固定残業手当の規定が適正かどうか、今一度専門の社労士によるリーガルチェックを受けることを強くお勧めします。
【ステップ4】 評価制度のパラダイムシフト(「時間」から「成果・効率」へ)
生活残業や昭和型アピール残業を撲滅するためには、会社の評価軸を根本から変える必要があります。
- 「時間内に仕事を終わらせて、定時で帰る社員」を高く評価する。
- 「残業時間の長さ」ではなく、「成果」や「時間当たりの生産性」を重視する
このように評価制度を改定し、「だらだら残業していると、残業代は手に入るかもしれないが、基本給の昇給や賞与(ボーナス)査定で大きくマイナスになる」という仕組み(評価スキーム)を構築します。これにより、「残業した方が損をする」環境を設計することができます。
【ステップ5】 就業規則(賃金規程)の改定と従業員への周知徹底
ここまでのルール(事前申請制、評価基準、固定残業代の定義など)を、すべて就業規則および各種規程に落とし込むことが重要です。
就業規則は、会社のルールを明確にするための重要なルールブックです。残業許可制や評価基準などを実効性のあるものとするためには、その内容を就業規則に明記し、変更後は労働基準監督署への届出だけでなく、従業員へ適切に周知すること(説明会を開く、いつでも見られる場所に置くなど)が重要です。
4. 指示に従わない「モンスター残業社員」への対応実務
ルールを整備しても、「私は仕事に妥協したくない」「このやり方でないと終わりません」などと言い訳をして、残業申請を無視して残り続ける社員、いわゆる「確信犯的な残業社員」が現れることがあります。
このような場合の対応は、「業務命令違反に対する段階的な懲戒処分」の手順を踏む必要があります。感情的に怒鳴るのではなく、冷静に、かつ法的に外堀を埋めていくのが「会社を守る」鉄則です。
【段階的な対応プロセスの例】
1. 口頭による注意(いつ、誰が、どう注意したか書面に記録)
▼(改善されない場合)
2. 文書による指導・警告(「指導書」「改善促進通知書」を交付し受領サインをもらう)
▼(さらに改善されない場合)
3. 就業規則に基づく「懲戒処分」(「譴責(けんせき・始末書の提出)」からスタート)
▼(なおも繰り返す場合)
4. より重い懲戒処分(「減給」「出勤停止」等、必要に応じた人事上の対応を検討)
このように段階を踏んでおくことで、仮に最終的に重い処分に至ったとしても、裁判所で「会社は十分な指導・注意のプロセスを経ており、処分は妥当である」と判断されやすくなります。
5. まとめ:大阪の中小企業の経営者様へ。労働環境の健全化は「今」進めましょう
「残業を好き好んでする社員」への対応を放置することは、会社の財務を傷つけるだけでなく、「真面目に時間内に仕事を終わらせて帰る優秀な社員」のモチベーションを著しく低下させ、彼らの離職を招く原因にもなります。
「頑張っているように見えるから」「波風を立てたくないから」と、見て見ぬふりをするのは今日で終わりにしませんか?
労務管理の適正化は、単なる「コスト削減」ではありません。
生産性を向上させ、無駄な支出を抑え、法律の盾で会社と従業員の未来を守るための「攻めの経営戦略」です。
- 我が社の就業規則は、今の法律に照らし合わせて適切な残業管理をできる内容になっているか?
- 固定残業代の規定は、万が一の時に無効と判断されない適切なものになっているか?
- 実際の残業申請ルールの運用を、どのように現場に定着させればいいか?
少しでも不安や疑問を感じられた経営者様・人事担当者様は、ぜひ一度、大阪市中央区の大神人事労務事務所までお気軽にご相談ください。
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