大阪市の中小企業の経営者様、人事労務担当者の皆様、いつもお世話になっております。大神人事労務事務所です。
近年、国を挙げた「働き方改革」や、リモートワークの普及、さらには物価高騰に伴う収入補填などの観点から、従業員の間で「副業・兼業(以下、副業)」を希望する声が急速に高まっています。
大阪市内でも、優秀な人材の獲得・定着や、従業員のスキルアップを目的に、副業を解禁する中小企業が目立つようになってきました。しかし、一方で「従業員が副業を始めたが、会社として何をどこまで管理・対応すればいいのか分からない」「トラブルを未然に防ぐための法的なルールが曖昧になっている」というご相談をいただくケースも非常に増えています。
副業は、労働者の自由な時間に行われるものであるため、会社が全面的に禁止することは原則としてできません。しかし、「労働時間の通算管理」や「健康確保措置」、「情報漏洩の防止」など、会社側が必ず対応しなければならない義務や実務上のポイントが複数存在します。
本コラムでは、副業している従業員に対して会社が対応すべき実務と注意点を、法的根拠を交えながら分かりやすく解説します。
1. なぜ今、副業への対応が急務なのか?
厚生労働省が策定している「モデル就業規則」において、かつては「許可なく他の会社に雇用されないこと」という副業禁止の規定が一般的でした。しかし、2018年の改定により、「労働者は、勤務時間外において、他の労働に従事することができる」という表現に変わり、原則副業容認の方向へと舵が切られました。
大阪市内の中小企業が副業に適切に対応すべき理由は、単に国の施策に合わせるためだけではありません。
- 人材の流出防止と採用力の強化: 「副業禁止」を頑なに続けることで、優秀な若手や専門スキルを持った人材が、副業を認める競合他社へ流出してしまうリスクがあります。
- トラブルの事前回避: ルールが未整備のまま従業員が副業を始めると、本業の業務に支障が出たり、企業の秘密情報が漏洩したり、超過勤務による健康障害が発生したりするリスクが高まります。
会社を守り、かつ従業員が安心して働ける環境を作るためには、正しい知識に基づく「副業の管理体制」の構築が不可欠です。
2. 会社が対応しなければならない「4つの実務」
従業員が副業を行っている(または行う予定である)場合、会社が対応しなければならない主な実務は以下の4点です。
① 労働時間の通算管理(最も重要かつ複雑な実務)
労働基準法第38条第1項には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められています。これは、自社(本業)だけでなく、他社(副業先)で雇用されて働く時間も合算して労働時間を計算しなければならないという意味です。
※注意: 労働時間が通算されるのは、副業先でも「労働者(雇用契約)」として働く場合に限られます。副業がフリーランス(業務委託)や個人事業主、法人の役員として行うものである場合は、労働時間の通算対象外となります。
通算した結果、法定労働時間(原則として1日8時間、1週40時間)を超える部分については、原則として「時間外労働(残業)」となり、割増賃金(残業代)の支払い義務が発生します。
【どちらの会社が残業代を支払うのか?】
労働時間が通算されて法定労働時間を超えた場合、どちらの会社が割増賃金を支払うべきかは、「労働契約の成立順」によって決まるのが原則です。
- 先に労働契約を締結していた会社(本業先): 自社の所定労働時間分については、原則として通常の賃金を支払います。
- 後から労働契約を締結した会社(副業先): 自社の労働時間と、先に契約している会社の労働時間を通算し、法定労働時間を超える部分について割増賃金を支払う義務があります。
ただし、本業先の所定労働時間内に、本業先で残業を命じたことによって法定労働時間を超えた場合は、本業先が割増賃金を支払う必要があります。このように非常に複雑な計算が絡むため、自社での労働時間と他社での労働時間を正確に把握する仕組みが必要です。
② 従業員の健康管理(安全配慮義務)
会社は、従業員が健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負っています(労働契約法第5条)。
従業員が副業を行うと、当然ながら総労働時間が長くなり、休息時間が減少します。これにより、過労や睡眠不足に陥り、本業でのパフォーマンス低下や、最悪の場合は脳・心臓疾患などの健康障害を引き起こすリスクが高まります。
過労による労災事故が発生した場合、会社が「従業員が副業でどれだけ働いているか知らなかった」と言い訳することは通用しないケースがあります。会社としては、定期的な面談や労働時間の自己申告を通じて、従業員の心身の健康状態を把握する必要があります。
③ 労災保険の確認(複数事業労働者への対応)
万が一、従業員が副業中、あるいは通勤中に怪我をした場合の労災保険の扱いについても理解しておく必要があります。
現在、法律(労災保険法)が改正され、「複数事業労働者」に対する給付制度が整っています。
- 負傷した際の対応: 事故が発生した側の会社(副業中に怪我をしたなら副業先)の労災保険を使用します。
- 給付額の計算: 以前は怪我をした会社の賃金分しか補償されませんでしたが、現在は「すべての勤務先の賃金を合算した額」を基礎として休業補償等が給付されます。
- 過労死ラインの判定: 脳・心臓疾患や精神障害の発症原因を評価する際、すべての勤務先の労働時間を通算して業務過重性が判定されます。
自社で怪我をしたわけでなくても、副業を含む総労働時間が原因で病気になった場合、自社も安全配慮義務違反を問われる可能性があるため、健康管理の徹底がより一層重要となっています。
④ 就業規則(副業規定)の整備と届出
副業を容認する場合であっても、完全に自由放任にするのは極めて危険です。会社の利益を守り、秩序を維持するために、就業規則に「副業に関する規定」を明記する必要があります。
常時10人以上の労働者を使用している事業場では、就業規則を変更した際、労働基準監督署(大阪市内の企業であれば、大阪中央労基署、大阪西労基署、天王寺労基署など管轄の労基署)への届出が必要です。10人未満の企業であっても、トラブル防止のために書面でルール化し、周知しておくことが強く推奨されます。
3. トラブルを防ぐための「副業ガイドライン」と制限できるケース
最高裁判所の判例などからも、労働者が勤務時間外にどのような活動を行うかは原則として自由とされています。しかし、会社は以下のような合理的な理由がある場合に限り、副業を制限・禁止、または許可制にすることが可能です。
| 制限・禁止ができる主なケース | 具体的な内容・リスク |
| ① 労務提供に支障がある場合 | 副業による深夜労働や過重労働で、本業の時間帯に居眠りをしたり、遅刻・欠勤が増えたりする場合。 |
| ② 守秘義務違反・情報漏洩 | 自社のノウハウ、顧客情報、技術的な秘密が、副業を通じて外部や競合他社に漏洩するリスクがある場合。 |
| ③ 競業避止義務違反(利益相反) | 競合する他社でアルバイトをしたり、同業の事業を個人で興したりして、自社の不利益となる行為を行う場合。 |
| ④ 会社の信用・名誉を毀損する場合 | 反社会的勢力が関与する業務や、公序良俗に反するような副業を行い、自社の社会的信用を著しく傷つける場合。 |
実務上の対応:届出制・許可制の導入
これらをコントロールするために、実務上は「事前の届出制」または「許可制」を導入するのが一般的です。従業員に以下の内容を記載した「副業申請書」を提出させ、会社が事前に内容を審査する仕組みを作ります。
- 副業先の名称、業務内容
- 副業の雇用形態(雇用、業務委託など)
- 副業を行う曜日、時間帯、1週・1ヶ月あたりの予定労働時間
- 契約期間
これらを事前に把握することで、上述した「労働時間の通算」や「健康障害のリスク」を最初の段階で予測し、必要に応じて「本業に支障が出るため、この副業は認められない」「労働時間をもう少し減らすよう副業先と調整しなさい」といった指導を行うことが可能になります。
4. 大阪の中小企業が今すぐ取り組むべき「3つのステップ」
では、具体的に明日から何を始めればよいのでしょうか。大阪市の中小企業の皆様に取り組んでいただきたい3つのステップをご提案します。
ステップ1:自社の現状把握と方針決定
まずは、社内で現在こっそり副業をしている従業員がいないか、または今後副業を希望する声があるかなどの現状を把握します。その上で、経営陣として「一律禁止にするのか(法的なリスクを考慮した上で限定的に禁止にするか)」「条件付きで認めるのか」の方針を決定します。
ステップ2:就業規則の改定と申請書類の作成
方針が決まったら、就業規則(副業・兼業規定)を整備します。前述の「制限・禁止できる4ケース」を盛り込み、許可・届出の手続きの流れを明記します。同時に、「副業・兼業届出書(許可申請書)」などのフォーマットを作成します。
ステップ3:従業員への周知と説明
ルールを変更・新設した後は、従業員に対してしっかり説明を行います。「副業を頭ごなしに禁止するわけではないが、皆さんの健康を守るため、また会社の秘密を守るためにルールを作った」という意図を伝えることで、従業員の理解と協力を得やすくなり、無断副業(隠れ副業)の防止につながります。
5. まとめ:副業対応に迷ったら、大神人事労務事務所へご相談ください
従業員の副業対応は、一見すると「従業員のプライベートな問題」に思えるかもしれません。しかし、一歩間違えると「未払い残業代の発生」「過労による労災認定」「情報漏洩による企業信用の失墜」といった、中小企業にとって経営を揺るがしかねない重大なリスクへと発展する火種を孕んでいます。
「労働時間の通算計算が自社だけでは正しくできるか不安…」
「うちの業界の場合、どのような副業規定にすれば安全か分からない」
「従業員から副業の申請があったが、許可していい内容か判断がつかない」
このようにお悩みの経営者様・人事労務担当者様は、ぜひ一度、大神人事労務事務所にご相談ください。
当事務所は、大阪市を中心とした中小企業様の特性や地域の雇用情勢を深く理解した社会保険労務士事務所です。貴社の実態に合わせた就業規則のカスタマイズから、日々の労務管理のアドバイス、万が一のトラブル対応まで、親身になってサポートいたします。
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